
こんにちは、Miyabiだ。
僕はトランスジェンダー男性で、このブログではLGBTq+の人、またはその周りの人で「どうしたら良いか分からない」「自分は/あの人は一体何なんだ?」と悩んでいる方に向けて、体験やリサーチ、アートや歴史を元にLGBTq+情報をお届けしている。
で、今回は
「自分の性自認が分からない」「相手の性別は男?女?」
と、性自認がはっきりせずにモヤモヤしている方に向けて、「問いに必ずしも答えが無くても良いのではないか?」「性自認をはっきりさせる以外に、目的はあるのではないか?」という観点からお話していきたい。
「美少年くん」は性別:美少年だよ。
目次
性自認~性別をはっきり出したいという思いとは?

今回の記事は、「LGBTq+についてある程度調べたよ」「トランスジェンダーにも色んな人がいることが分かってるよ」「それでもモヤモヤする」という人向けに書いていく。
↓「まだよく知らないぞ」という方は、これらの記事を参考にしていただきたい。
性自認という観点~シスジェンダーとトランスジェンダーの違い

「性自認」は「心の性別」と言い換えると分かりやすい。
生まれた体の性別(身体性)とは関係なしに、自分が自分をどういう性別として認識しているか・あるいは認識していないのか、というのが性自認だ。
生まれたときに親やお医者さんが「男の子ですね」「女の子ですね」って決めて戸籍に登録した性別=身体性。
身体性に違和感を抱かない人もいれば、「なんか違う…」と違和感を抱く人もいるってことだね。
と、性自認が何か整理したところで、ここで一端LGBTq+から離れてみよう。
僕は「性自認」の話をするとき、いつもある話題を思い出す。
「体(物質)」と「心(精神)」という2つの項目は、古くから「可視」「不可視」など、主に哲学者やアーティストたちが話題にしてきたことだ。

「体に影響されて、心がある」
「いやいや、体と心は別物だ」
「いやいや…」
哲学が発展してきたのは主に西洋の方なので、この議題は後に「神をどう解釈するか?」「キリスト教をどう解釈するか?」という観点からも発達した話題だが、これって身体性と性自認の問題に似ていないだろうか?

生まれてきた体の性別に満足していて、違和感を抱かない人(=シスジェンダー)なら
「身体性と性自認っていっしょのことでしょ?何でわざわざ分けるの?」
と感じる。
一方で生まれてきた体の性別と、性自認とが一致せずにモヤモヤしている人(=トランスジェンダー)なら
「身体性と性自認って全く別なんだなぁ……だって、実際そう感じてるし」
と感じる。
シスジェンダーは「体と心を分けるとはなんぞや?」と思うし、トランスジェンダーは「体と心が一致しているとはなんぞや?」と思う、ということだ。
このままだと、シスジェンダーとトランスジェンダーで話し合っても、ずっと平行線のままになっちゃうよ。
性別は何で答えなきゃいけないの?

このままだとシスジェンダーとトランスジェンダーが敵対してしまう、というところで。
突然だが、人間の性質として、「紅組vs白組」「関東vs関西」のように二項対立の形が分かりやすい、という盛大な落とし穴がある。
「男?女?」という疑問も二項対立と同じで、分かりやすさを求めているね。
トランスジェンダーの中にも
- 身体性と性自認、両方ともはっきり性別が自己認識できている人
- 性自認は分からないけど、とにかく自分の身体性が性自認と違うな、と感じている人
- トランスジェンダーの枠を超えて、ノンバイナリーの人
などなどがいる。
また、身体性と性自認が一致しているシスジェンダーの中にも
- 身体性と性自認は確かに一致しているが、性表現は別の性別で生きたい人
- 身体性がそもそも「男・女」とくくれないインターセックスの人
などなど、本当に様々だし、実際「シスジェンダー」「トランスジェンダー」とバキッと2つに分けきれない部分もある。
あるいは性表現など「他の分野も持ち込むと、同じシスジェンダー・トランスジェンダー内でも「完全に理解」「完全に同じ人」とはならなくなる」といった現象が起こる。
確かに「音楽大好き!」って集まった仲間でも
「俺クラシックが好き」「私ロックがいい」「僕は現代アートの音響美術に興味あるんだけど…」
みたいに、理解し合えなくて微妙な空気流れることってあるよね。
ここまで見ると、確かに「自分の性自認が分からない!」「相手の性別はいったい何?」というのは気になるし悩みの種ではあるが、性別でバキッと2分したところでやはり微妙な空気流れるよな、とも思うのだ。

たとえ「男」「女」と性別を答えて納得した感じでも、「男ならもっと男らしく…」「もっと女らしく…」とジェンダーで色々言われて、「はい…?」となった人は、シスジェンダーにもトランスジェンダーにもいるだろう。
何が言いたいかというと、結局、主観だということだ。
性自認も身体性も、ジェンダーも、全部その人の主観でしかない。
「客観的に言ってる」と言っても、「客観的に見たら、こうなるだろう」という主観なのだ。
そして「このモヤモヤも、性自認がはっきりすれば解決するはずだ」というのも主観になる。
じゃあ、この「主観」ってどう扱えばいいの?
よし、では次に進もう。
何で性自認をはっきりさせたいの?
「白黒はっきりしてスッキリしたい」は危険かも

ここで「何故あなたは、性自認をはっきりさせたいのか?」という疑問を出そう。
「早く白黒はっきりさせてスッキリしたいから」と思った人は、少しストップ。
もしあなたが自分の性自認をはっきりさせたい場合は、もしかすると次の段階に「ホルモン治療」「性別適合手術」などを見ているかもしれない。
確かに今の日本の法律だと、生殖機能を完全に取り除かないと戸籍の性別変更ができなくて、本人確認書類などが全て自分の性別と違う性別で書かれるなど、嫌な思いをすることが多々ある。
僕もホルモン治療だけの状態なので、すごくよく分かる。
だがそれとは別に、体は紛れもなく、あなたの物だ。
人権を無視している状態の法律に合わせて、「本当は赤ちゃん欲しいけど、戸籍変更のために子宮/精巣とるか…」というのは、ちょっとおかしい(法律が)のではないか?
それで政治家に「LGBTq+は生産性がない」などと言われると、本当に腹立たしい。
…少し感情的になってしまった。

話を分かりやすくするなら、石ノ森章太郎「サイボーグ009」を見ると良いかもしれない。
これは本人の意思を無視して、主人公たちは人間兵器となるためにサイボーグ化手術をされてしまう漫画だが、「機械のくせに!」という言葉に対して
「僕たちも人間だ!」
と返すシーンが、すごく心に残る。
つまり、性自認というのは、早めにはっきりさせとかないといけない物ではなく、違和感があるなら、その違和感を1つずつ「どこに違和感を感じたのかな?」と丁寧に調べていくのが大事なのだ。
「性自認」というのは人によっては「ああ、それね」という感覚の人もいれば、「話さなきゃいけないのか……」とすごく重くとらえている人もいる。
「はっきりさせた」結果「スッキリ」に繋がるとは、必ずしも言えない、というのを頭の隅に置いておくと良いかもしれない。
カラオケで流行りの曲が好きな人たちの中で、「アニソン歌っていいですか……?」って言いだすの難しいな…
みたいなことだね。
「はっきりさせたい」よりも重要なこと・共通の目的を優先する

あなたが「自分の性自認が分からない」側でも、「相手の性別が分からない」側でも、「何で性自認をはっきりさせたいのかな?」を深堀すると、別の観点が出てくるかもしれない。
例えば
「制服、スカートじゃなくてスラックスが良いな」
「女の子扱い・男扱いされて、その人の男女観を押し付けられたくない」
「トイレや更衣室で、入る方にとても迷う」
「仕事で一緒になるので、どう扱えば良いか分からない」
「好きになった相手なので、もっとその人のことを知りたい」
などなど。

「制服をスラックスにしたい」という思いでいうなら、あなたの性自認が何であろうと、「スカートではなく、スラックスを履けたら、とりあえず問題クリア」ということになる。
しかも、シスジェンダー女性の中にも「あたしスカート嫌いなんだよね」という人はいる。
性自認問題で理解し合えなくても、「制服をスラックスにしたい」で合致している。
つまり仲間だ。
あなたがわざわざ性自認をはっきりさせて、お医者さんから性同一性障害の診断書を貰わずとも解決できるかもしれない。

あるいは「仕事で一緒になるから、どう扱えば良いか分からない」場合は、
「なんてお呼びすればよろしいでしょうか?」
で済む。
トイレの場所を聞かれても「女性用と誰でもトイレは1階、男性用は2階です」と全て答えれば良いし、もし相手が性自認関係で何か悩みがあるなら、向こうから信頼できる人に相談するはずだ。
「仕事が円滑に進むように」を考えるなら、相手が何ができるか・得意かを知るのが先決だろう。
カラオケの例えだと
「流行りの曲好き」も「アニソン好き」も「カッコイイ曲が好き!」って共通点があれば、お互いの持ち曲の中から「カッコイイ流行り曲」「カッコイイアニソン」を持ち寄って楽しめるね。
性自認に悩む当事者の方へ

自分の性自認……となると、単なる好奇心というよりかは、「自分は何者なんだろう?」という視点から不安感が付きまとう方が多いかもしれない。
「早く何者かになりたい」
その思いが出てくるのは仕方のないことだ。
なので一応、「トランスジェンダー・性同一性障害かもと思ったら」そこからどういう道筋があるか、ざっくりとこちらの記事で紹介している。
↑割と実際的なことを書いたので、「性自認はまだ分からないけど、知っておけることは知っておきたい」という方はぜひ。
また、性自認を「男」「女」「Xジェンダー」あるいは「ノンバイナリー」と結論が出なくても
「クエスチョニング」
というアイデンティティがある。
「分からない」こと自体をセクシュアル・アイデンティティにしているのがクエスチョニングだ。
なので「性自認が分からない」ことで周りに焦らされることはあっても、あなたは「クエスチョニング」という「何者か」ではある、ということをお知らせしたい。
まとめ

今回は「性自認が分からないからはっきりさせたい」ことについて、「別視点があるのでは?」ということをお話してきた。
実際僕も、物心ついた頃から性別についてモヤモヤがあり、「LGBTq+」という言葉があることを高校時代に知ってから7年間「自分の性自認って何……」と悩んできた。
なので元クエスチョニングのトランスジェンダー男性だ。
クエスチョニングのときずっと性別について考えたり調べたりして、僕みたいに「男性」などと結論が出る人もいれば、「分からないことがアイデンティティ」としてクエスチョニングとして生きていく人もいる。

LGBTq+も職業も人生も何もかも、死後初めて確定するものだ、と思えば生きやすくなると考える。
古代ギリシャで、人間の特徴は「テクネ(制作)」と「ロゴス(語る)」だ、と言われている。
どちらも「考える」があって初めて起こることだ。
あなたも僕も人間だ。
いったん安心してから、次に進んでもいいじゃないか。