
こんにちは、Miyabiだ。
生まれた体の性別が女性で、性自認が男性であるFTMにとって「低い声を手に入れる」ことが重要な人は多い。
ホルモン注射を打つと声の低音化が進み、自力で低い声を頑張って出すよりも楽に、元の声が高い人も効率よく低くすることができる。
…って言うけどホルモン注射って、実際どれくらいのクオリティで男性っぽい声が出せるの?
僕もFTMでホルモン注射歴1年半だが、美少年くんの言うように、打つ前は
「どれくらいの期間で低くなるのだろう?」
「納得いく声になるのか?」
「ポーンと低くなる時がくるのか?」
などなど、疑問や不安が多かった。
最近やっと声が低く安定してきたので、今回はFTMの声変わりはどんな変遷を辿って低くなるのか?についてお話していこう。
目次
FTMと声変わり
0、声変わりの方法
この記事ではホルモン注射による声変わりについてご紹介していくのだが、その前にホルモン治療以外で低くする方法についても少し見てみよう。
同じトランスジェンダーでも「ホルモン治療したい派」と「ホルモン治療したくない派」がいるもんね。
そう、それでホルモン治療をしないFTMの方がやっているのがボイストレーニング。

声優や歌手が行っているイメージが強いが、声域が広い職業でもあるので、彼らの声のトレーニングの内「低い声」に注目したボイトレを行えば理論上成果が出るはずだ。
10年前から歌い手で両声類(男性声の出る女性、女性声の出る男性)と言われる人たちが人気を博してから、一般にもボイトレの認知が広がったように感じる。
「女性 男声」「女性 少年声」などで検索すると「喉を開く」「胸部に響かせる感じで」などなど、FTMにも使えそうな男性の声の出し方のヒントが出てくる。

今現在ではトランスジェンダーをメインに見ているLGBTq+ボイストレーニング教室もあるようだ。
「まだ年齢的にホルモン治療ができない!」「声は低くしたいけど、ホルモン注射の他の作用は欲しくないからホルモン治療はやらないかな」というFTMの人は、このボイトレの方法をヒントに練習すると良いだろう。
そしてこのボイトレ方法は、この後ご紹介する男性ホルモン注射をした後にもかなり参考になる。
一度チェックしてみよう。
1,ホルモン注射でどれくらい声は低くなる?

さて、ここからは実際にホルモン注射を打って起こる声の変化について見ていこう。
気になるのはやっぱりクオリティだよね。
そう、「男装」ではなく「男性」として生きていきたいわけだから、男性の声になってもらわなければ困ってしまう。
結論から言うと、打ち始めてから約1年が経過した時点でだいたいの人がシスジェンダー(生まれた体の性別と性自認が一致している人)男性と同じ周波数の声に変化するとのことだ。

ホルモン注射を続けて1年半が経過した僕の声も、1オクターブ声域が低くなっている。大学を音楽で出た絶対音感の持ち主なのでこの計測に自信がある。
声質も男性特有のザラッとした引っかかりが発生した。
このじゃっかん引っかかる感じの声質って意外と大事かも。
逆にシスジェンダー男性でも、この引っかかる感じが全くないと「女性?」って認識されがちだよね。
声の高さ・低さ自体は個人差が大きい部分だ。
ホルモン注射でどれくらい低音化するかは、あなたの血のつながった家族や親族の男性の声の高さを参考にすると把握しやすくなる。
ちなみに、声の高い・低いに血液中の男性ホルモンの量の多い・少ないは関係がないようだ。
2、ホルモン注射で声変わりする期間はどれくらいかかる?

クオリティがどれくらいか分かったので、次はどれくらいで変化が発生するかの期間も重要になってくる。
カミングアウトしていない場合、そのタイミングにも関わってくるよね。
ホルモン注射を打ち始めて約3ヶ月前後くらいで、声が変化してくるのに気づくだろう。
12ヶ月経過したくらいで、ようやく「こんな声か」と決定してくる感じだ。
1で話した「声のクオリティ」はこの12ヶ月目あたりを経過して、「こんな声か」と見えてきたくらいの頃の話になる。
3、ホルモン注射による声変わりは、どんな経過を辿るの?

実はホルモン注射による声変わりも、シスジェンダー男性が思春期に経験する声変わりも、経過の仕方はほとんど変わらない。
3ヶ月目あたり

約3ヶ月前後で声の変化に気づくと先ほど言ったが、ここで気づくのは「低くなったな」ではなく、
「声が出ない…」
だ。
中学時代の男子の声がやたらひゅーひゅー空気が混ざっていたように聞こえたが、まさに声帯に響かない・震えない、声の中の息の量が増えるのだ。
大声出そうとしても声が出てこないので、周りに「風邪ひいた?」と聞かれるのはFTMあるあるのようだ。
中学生男子も声変わりの始まりは「喉の風邪かな…?」と感じると保健の教科書に書いてあったので、「風邪だ!」と焦ることはない。
不安定期

「そういえば中学時代、男子は合唱やたら嫌がってたな…」という記憶があるが、それが実体験として訪れる。
声が安定しないのだ。
変化し始めている声帯を震わせるコツがだんだんつかめてくるが、まだまだ未発達なので
- 声域がとても狭くなる(ピンポイントでしか声が出ない感じ)
- 高めの声はすぐにひっくり返る
- 話すと喉が疲れる
という状態がしばらく続く。
似たようなところでは「歌いたい音から外れた音しか発声できない」という状態も起こる。
藝大4年間を絶対音感で乗り越えてきたと自負する僕が「歌の音程が外れる…」と悩んだということは、「出そうと思っている音」が声帯から出てこない、ということだ。
これは普通の話し声でも高めの声がすぐひっくり返る現象と同じことだろう。
12カ月過ぎ~安定し始める

ホルモン注射を始めてから1年が経過してから、だんだん声は落ち着いてくる。
「声変わりした結果、こんな声になったのか」と認識できるのはこの時期。
不安定期を超えたので
- 声変わりして低くなったところで、声域が普通くらいに広くなる。(ピンポイント狙わなくても大丈夫な発声になる)
- 声がひっくり返る事件が激減する。
- 狭まっていた声域が広くなるので、「少し話しただけなのに喉が疲れる…」といったことも激減する。
と、普通に話せるようになる。
「風邪?」と聞かれることも無くなるが、「男声」で落ち着くのでカミングアウトしていない場合は周囲にいよいよ気づかれるかもしれない。
また不安定期に歌が歌えなくなった事件も、声域の広がりと安定がくるので、狙った音を発声してもひっくり返らず正確な音を歌えるようになる。
歌に関して言えば、高めの音域でファルセットも練習すれば出すことは可能になってくる。
3~4年

シスジェンダー男性は、変声期が終わって完全に声が安定するまでに3~4年かかるという。
1年過ぎた頃から順次「声が落ち着いてきたかな」と自覚が出るが、FTMも完全に安定するまでに3~4年見ておくと焦らずに済むだろう。
中学生は友だちと遊んだり部活をしたりで、声をとにかく出す・大きい声で話す機会が多いけど、大人はそんなにはっちゃける機会はそうそうないよね。
声を安定して出すためにもカラオケや通話、音読なんかをしておくと、声変わりした自分の声の出し方に慣れてくるよ。
FTMが声変わりでやっておくと良いこと
1、鼻ではなく、胸を意識する
音域が低くなっただけでは、「声の低い女性」と認識されることもある。
なので男性の発声の仕方を意識すると、クオリティはアップするだろう。

女性の声は、頭蓋骨に響かせるというか、鼻に抜けるように発声される。
これを徹底するとジャパネットたかたの社長のようにご機嫌で明るい話し方ができるようになる。
ここまで徹底しなくても、男声で女性の発声の仕方をすると少年声になったりと、音域がじゃっかん上がった声に聞こえ、高めの声のとおりも良くなるのだ。
一方で男性の声は、喉を開いて、胸に響かせて発声される。
これを徹底すると男性のオペラ歌手のように、テノールやバリトンといった低い音域を朗々と発声できるようになる。
鼻に抜ける発声だと低い声は出せないが、胸がビリビリ振動するように発声すると、こちらは低い声になって、さらに低めの声のとおりを良くする。
これはホルモン注射せずに声を低くするボイトレ方法でもある。
FTMで「低い男声に聞こえてほしい」という人は、まずはこちらの胸に響かせる発声の仕方を練習すると良いだろう。
胸発声を練習したあとで「やっぱ明るめの声が自分に似合うな」「少年っぽいのが似合うな」と感じたら、そこからまた鼻に響かせるタイプの発声も練習すると出しやすい声の領域が広がるよ。
2、しっかり声を出す

部活のような文言だが、男声は女声以上にしっかり声を出すのが重要だ。
何故なら、低い声はこもりやすいからだ。
声の低い男性に「声量もあって活舌もしっかりしている、いわゆるエエ声」の人と「ぼそぼそしていて何言っているか分からない」人がいる。
芸能人や歌手のように人前で言葉を伝える人だと「エエ声」訓練されていて良いのだが、普通の生活をしていると「ぼそぼそタイプ」になりがちだ。
女声のときは普通に話していてもしっかり伝わっていたのが、声が低くなったとたん「もう1回言って?」と聞き返される率が上がってしまう。
円滑にコミュニケーションをするためにも、女声発声に慣れているFTMは、声変わり後にはしっかり声を出すのを意識すると、かなり良い。
まとめ

今回はFTMのホルモン注射による声変わりについてお話してきた。
声がすぐひっくり返ってしまう不安定期から抜けるまでに、注射開始から1~2年見ておくと良い。
3ヶ月目あたりには声が出づらくなるので、「3ヶ月後にスピーチ大会だ」「歌の発表会だ」等々の予定のある場合はホルモン注射を見送った方が良いかもしれない。
さらに声が出ない期には「風邪」とごまかせても、不安定期には安定はしていないものの基本的な声の高さが低くなっているので、カミングアウトしていない場合は隠すのがきつくなってくる頃だろう。

ホルモン注射で一度低くなった声は、ホルモン注射を中断しても完全に元に戻らない。
なのでホルモン注射の作用を見て少しでも不安要素があれば、焦って打ち始めることもない。
ちなみに僕はすごく満足しているので、不安要素がなければ、そこまで怖がることもないと思う。(ただ慎重さは大事)
FTMのホルモン治療はどんな変化が起こるのかについては、こちらの記事にまとめてある。
「トランスジェンダーだと思うんだけど、ホルモン治療したいときどうすれば良い?」という人は、おおよその道筋を書いたこちらの記事を参考にしていただきたい。