
こんにちは、Miyabiだ。
「ダビデ」という名をご存知だろうか?
ダビデとゴリアテの物語で、巨人であるゴリアテを石ころ1つで斃した美少年として語られるので、最近ではビジネス書なんかにも登場する古代からの人気者だ。
ルネサンスの彫刻家・ミケランジェロの代表作として有名なのも「ダビデ像」だよね。
そう、美少年くんの言うように、勇敢な美少年であるダビデの存在はたくさんの芸術家にとっても人気な存在だった。

この勇敢で美しいダビデだが、実は一介の羊飼いの末っ子で、ある日突然、預言者に
「あなたが王の後継者だ」
と見出されたのが全ての始まりだった。
今回はダビデの物語と、ゴリアテとの闘いを描いた絵画、親友(あるいは同性の恋人)であるヨナタンについてをお話していこう。
目次
ダビデの物語を、絵画・彫刻作品から見る
ダビデとは?~生い立ち

ダビデは旧約聖書に登場するイスラエルの預言者、または王様の名前だ。
有名なソロモン王の父親でもある。
これを見るととても輝かしい経歴なのだが、ダビデの出身は羊飼いだった。

古代の羊飼いというのは低く見られていた職業であり、こちらの記事にも登場しているように、同時に古代西洋の物語ではよく見る職業でもある。
イスラエル最初の王・サウル王(この人もかつては美少年で預言者に指名されて王になった)が「アマレク人を滅ぼせ」という神の命令に背いたことから、神に見放されてしまった。
この当時では「神に選ばれた人間」=「王様」だったんだね。
そして「神がこの人を選んだよ」というのを預言者が伝えるという手順を踏んでいたんだ。
なので新たな王の後継者を選ぶべく預言者・サムエルが、冒頭でご紹介したように、羊飼いの末っ子である美少年・ダビデを見出したのだ。
村で預言者に見出されて、敵と闘って勝利して、最後は王様になったダビデ。
RPGの勇者みたいだね。
そう、まさに勇者のように登場したダビデは、神に選ばれた人間(文字にすると怪しさがすごいが、そういう言い伝えなので、美術作品などを見るヒントとしてそのまま書いておく)として、王の後継者になった。

神に見放されたサウル王はというと、神によって悪魔が送り込まれてしまい、頭がかき乱されてしまうようになったらしい。
そこでダビデはサウル王を癒すために、得意の竪琴を演奏しに宮廷に出入りするようになったのだ。
ダビデとゴリアテ

サウル王率いるイスラエル人はこのときペリシテ人との戦争の真っ最中だった。
このペリシテ人側の最強兵士が、ゴリアテだ。
ちなみに、イスラエル側は神・ヤハウェを信仰していたのに対して、ペリシテ人は全く別の文化を形成していたよ。
なのでこれは宗教戦争ともいえるね。
3メートル近い身長を持ち暴れまわるゴリアテが「誰か自分に立ち向かう者はいないか」と挑発をして、イスラエル側を困らせていた。

ちょうど戦場にいる兄に食料か何かを届けに来ていたダビデが
「私が戦う」
と立候補。
巨人・ゴリアテにどう対抗しようかと悩んでいたサウル王は、このいかにも戦闘慣れしてなさそうな羊飼いの美少年を1人で敵に向かわせるのに反対をする。
だがダビデもまた1歩も引かないのでサウル王は「鎧と武器を渡すから持っていきなさい」と言って彼を送り出した。
「鎧は重いし、武器なんて使い方分からないし」と思ってかダビデはそれらを捨てて、普段着でゴリアテに向かい
「戦いは神のものだ。神はあんたを我々の手に与えてくれるだろう」
と宣言、石をゴリアテの眉間に命中、昏倒した巨人の首をはね、ダビデは勝利を収めた。

ゴリアテがただの暴れん坊の巨人であったり、ダビデにヒーロー演出がかかっていたり、ダビデが神様を称える言葉を言っていたりしているから「聖書」として脚色が入っていることが見て取れるね。
きっとこの場面がイスラエル人にとって重要な意味合いを含むからだと考えられるよ。
そう、このダビデとゴリアテの闘いは、ビジネス書で注目される「美少年が勇敢にも敵の巨人を、知能と技術でもって斃した」部分だけが重要なのではない。

実はこの話は「神に見放されたサウル王」「神に選ばれし次期王様・ダビデ」という2人の特徴を決定づけた物語でもあるのだ。
ゴリアテが挑発しているのに対して、サウル王は慎重に、悪く言えば逃げ腰の対応をした。
ダビデは「自分はいけます!」と立ち向かい、勝利を収めた。
「ダビデの方が王様として素質あるよね!」と自国民に認知させるために脚色されて、その結果、ストーリーとして面白くなり、一番有名な物語の1つとなったのだろう。
確かにストーリーの骨組みだけ見てみると、サウル王は慎重派でダビデは猪突猛進感あるよね。
…ダビデ、勝って良かったね。
サウル王の息子・ヨナタンの存在

ダビデが輝かしい戦績をおさめ、イスラエル人の英雄となった。
それをサウル王は気に入らない。
そもそも神に悪魔を送られて、ダビデの竪琴の演奏で癒されていたくらいだから、疲労や精神的苦痛も大きかったのかもね。
そこでサウル王はダビデの殺害を企てた。
一方でサウル王の息子・ヨナタンはダビデの親友だった。

ただの親友ではなく、ダビデを正当な王だと認めて「ダビデを自分の魂として愛している」ということで、ダビデに信頼を置いていたし大事に思っていたのだ。
父親と息子、親友同士、現王様と次期王様……
複雑な三角関係ができてきたね。
サウル王は竪琴を演奏するダビデに槍を投げつけたりするが、ダビデには当たらない。
それと反対に、ダビデの結婚などをきっかけに、板挟み状態のヨナタンは父親と親友が和解するように奔走した。

だがサウル王は暗殺を諦めたわけではなかった。
これを察知したダビデは脱出を試み、食事の席でヨナタンは父親であるサウル王に
「ダビデは兄弟に呼ばれて今日はいません」
とダビデを守るために嘘を伝えた。
この息子の嘘を見抜いたサウル王は
「ダビデへの愛はこの王国をダメにしてしまう、犠牲にしてしまう!」
と怒り狂い、槍を投げつけたのだった。

もう現実と妄想がごちゃごちゃになってしまっていたのだ。
この事件によって「もう和解もダメだし、父親はダビデに次会ったら絶対に暗殺してしまう」と認識したヨナタン。
彼は翌日、野に隠れているダビデに矢を放って、「父親であるサウル王は君に敵意を持っている」ということを伝え、ダビデを田舎に逃がした。
サウル王と食事をする前に、事前にヨナタンがダビデを野に隠して、「僕がサウル王に敵意が本当にあるのか、調べてくる」と伝えていたんだ。
矢はその結果がどうだったかの合図だったよ。
ダビデとヨナタンは別れ際に友情の誓いを立て、お互いに号泣し、口づけをし合ったと伝えられている。

同性愛関係であったと言われると同時に、理想的な主従関係とも伝えられているのがダビデとヨナタンだ。
ヨナタンとの関係はゴリアテとの物語と同じくらいの人気を誇っていて、絵画作品だけではなく舞台作品などにもなっている。
この後ヨナタンは父親のサウル王とともにペリシテ人との戦争で戦死し、2人の骨をダビデが拾って墓に収めた。
美少年の特権とダビデ

この後のダビデは、預言者に言われた通りにイスラエルの王となる。
ダビデの物語は、その後の物語と見比べると、この王様になったところでピークを迎えたように感じる。
「立派な血筋のある王様」だったらまだしも、そもそもの始まりが「羊飼いだけど、ものすごい美少年だった」ことからなので、30歳を過ぎた時点でダビデの長所が消滅していることになってしまうのだ。
「すごい王様の物語」は子どものソロモン王が担当することになっている。

逆をいうと、芸術家からすると「美少年を描ける」かっこうの主題として人気が高かった。
しかも「戦える勇敢な美少年」だ。
彫刻家・ヴェロッキオは弟子で美少年だったレオナルド・ダ・ヴィンチをモデルに制作した。

美少年を描いて初期の人気を博したカラヴァッジョは、ダビデにはねられたゴリアテの首を、自分をモデルにして描いた。

少年の姿で描かれるのが主流なダビデを、ムキムキの青年の姿で彫刻したのがミケランジェロだ。

他にも多くの画家や彫刻家がダビデを描いているが、どれも「俺の思う理想の美少年」の姿を追求しているように見える。
それに他の儚く死んでしまう美少年たちと違い、「戦える勇敢な美少年」なので、生命力のあるタイプとして少年から青年まで幅広く好みのモデルをあてがうことができるのも特徴だと感じる。
「ダビデとゴリアテ」「ダビデとヨナタン」「ダビデとサウル王」という3種類の美少年像を描けるのも、良いところだよね。
美少年であることは寵愛されるのに役立つだけではなく、指導者や英雄として立身するのにも重要な要素…ということだろうか。
何はともあれ、今回は元気に生きる美少年について書くことができて嬉しい。
まとめ

今回はダビデについてお話してきた。
「聖書」という歴史を伝える以外の目的のある書物に書かれた物語なので、描かれ方に偏りがあったり、あるいは誇張されたりしている部分もあると思う。
実際どこまでが史実でどこからが意図して脚色されたのかは研究の真っ最中だという。
神話や聖書、歴史が絵画や彫刻の主題になるのは、教えを広めるためでもあるが、美術家からすると「ダビデに自分の好みの少年をモデルにしよう!」というように、二次創作的な楽しみも含まれている。
二次創作を楽しむには原作を知っている方が良いように、近代までの西洋美術作品の多くが聖書や神話を元にしているのなら、原作を見返しながら鑑賞するとより楽しめるだろう。
ダビデのように「意思のある美しい男性美」を描ける主題として人気なのが、聖セバスティアヌスだ。
また、戦場で勇ましく散った美少年として有名なのがこちらのジョセフ・バラ。
他にも王に愛された美少年や、ギリシャ神話に登場する美少年、そしてそこに付随する同性愛についての記事もいくつかあるので、参考にしていただけたら嬉しい。