こんにちは、Miyabiだ。

トランスジェンダーの人が「ホルモン治療や性別適合手術をしたい」「改名手続きをしたい」と思ったとき、まず初めに性同一性障害(GID)の診断書を貰う必要がある。

2021年現在では、ジェンダークリニックとか性同一性障害を扱っている精神科の病院に行って診断してもらえるよ

診断書を貰いたいと病院に伝えると、必ず言われるのが

「自分史を書いてきてください」

だ。

「自分史って何…!?」「決まった書き方とか用紙とかってあるの?」「そもそも何に使うの?」

僕はFTM(生まれた体は女性だけど性自認は男性)として実際に自分史を書いて、性同一性障害の診断書を貰った。

そのときの経験も踏まえて、今回は性同一性障害の診断で必要な自分史の書き方、どういうところを意識して書けばいいかについてをお話していこう。

性同一性障害(GID)の自分史の書き方

自分史とは?

自分史を書く前に、自分史は何のために使うものかを見てみよう。

性同一性障害を扱う病院に「診断書をください」と直接駆け込んで伝えても、

「自分史を書いてきてくださいね~」

となって、その場で診断書を貰えることはない。

○×アンケートとかですぐに「あなたは性同一性障害ですね」と診断できるものではないんだね。

そう、美少年くんの言うように「診断」と言っても、ネットで溢れている「これに当てはまれば○○!」の診断ではない。

では、どう診断するのだろう?

お医者さんは「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」という現行の学会のガイドラインに沿って、あなたが本当に性同一性障害なのかを判断する。

そのガイドラインに

  • 詳細な養育歴・生活史・性行動歴について聴取する
  • 性別違和の実態を明らかにする

という項目が含まれている。

ここで登場するのが、あなたの自分史だ。

自分史にはあなたが今まで感じた「体の性別」と「心の性別」の違いによって生じた違和感を、年表のように書いたものだ。

お医者さんは、あなたの書いてきた自分史を元に「この人は性同一性障害なのかな?」というのを、ガイドラインの「ちゃんと聴き込みをしなさい」の「ちゃんと」具合が満たされたと思うまで質問をして、それから診断をする。(なのでどれくらいで診断書を貰えるかは病院によってまちまちだ)

病院から帰ってから「あっ、あれ言ってなかった!」「これ言い忘れた!」「カウンセリング無駄にした…」とならないためにも用意するといいかもね。
自分史があれば的確にお医者さんにあなたについて話すことができるよ。

では次に、具体的な書き方について見ていこう。

【自分史を書こう】1,用意するもの

用意するものはA4の用紙筆記用具だ。

アルバイトや就職の履歴書のような専用な用紙はないので、安心してほしい。

さらに言えば、「お医者さんが読めて理解できれば良い」のだから、用紙サイズもA4でなくても良いし、「コピー用紙に鉛筆」でも良いのだ。

ただお医者さんが読めなければ正確な診断ができない。

目安として、A4用紙の片面に収まるようにするとカウンセリングもスムーズになる。

【自分史を書こう】2,書く内容は?

「自分史」といっても、今までの人生で起こったこと全部を書くわけではない。

あくまでもあなたが「自分は性同一性障害ではないか?」と思ったきっかけや、それに関連するであろう出来事を年代順にするのだ。

自分史に書く内容は

  1. 幼稚園時代、小学生時代、中学時代、高校時代、大学時代…など、年代別に服装や友達や悩んだことであなたの性別に関係ありそうなものをピックアップ
  2. あなたが自身の性別に違和感を抱いたきっかけ何歳頃から違和感があるのか
  3. 自分の体の性別についてどう思っているのか、これからどうしたいか

この3項目は書いておこう。

1の年代ごとにピックアップは、例えば「幼稚園時代から男子の友だちが「異性」で女子の友だちが「同性」と扱われるのに違和感があった」「中学時代からあった制服が自分の性別のでなくて嫌だった」などなど、思い当たる性別関係の違和感を書くと良い。

Miyabiは別に制服に嫌悪感はなかったんだよね?

そう、僕は服に関して「スカートは嫌だ!」という思いはなかった。

が、それによって「女の子」と判断されて扱われることに違和感があった。

女性にもスカートが嫌な人もいたり、男性で可愛いものが好きな人もいるので、趣味や好みについてそんなに深刻になる必要はない

ただそこに「自分は男(あるいは女)なのになぁ…」といった違和感が付いてきている場合は、自分史に書いておくと良いだろう。

同じトランスジェンダーでも「これは大丈夫」「これは嫌」という許容範囲が違うということだね。

また、恋愛対象が自分の性自認と同性だということで

「あれ?本当は性同一性障害ではない?」

と判断してしまったり、あるいは

「体の性別は女(または男)で恋愛対象が女(男)だから、自分は性同一性障害じゃないかと…」

というように恋愛対象と性自認を混ぜて考える人が多い。

異性愛者のトランスジェンダーもいれば同性愛者のトランスジェンダーもいる。

なので性自認を考えるときに恋愛対象はほとんど関係ないと考えて大丈夫だ。

【自分史を書こう】3、書き方は?

「2、書く内容は?」で挙げた3項目も、1つの年表にまとめてしまって良い

カウンセリングの時間は限られているので、お医者さんに分かりやすいように箇条書きで書いていくと無難だ。


幼稚園時代

  • 友達は男女とも仲良かったけど、男子が「異性」と大人や年上の人に判断されることに違和感があった。
  • このときから「自分は女子と見られている」ことに違和感があった。

小学生時代

  • 先生が事あるごとに「女子列・男子列」に分けて整列する。
  • このとき「自分は男子だけど、女子列に並ばなきゃ怒られるんだろうな」という意識で女子列に並んでいた。

中学時代

  • 女性の特徴が体に出てくると、「自分のはずなのに自分の体ではない」感じが出てきた。
  • 保健の授業が苦痛。
  • 「男性の体」として習うことが自分の体に起こっていないことに絶望感。

……


このような「出来事」「思った事」を年代ごとに箇条書きにし、「現在」まで続ける

そして「現在」の部分に、「自分の体の性別・心の性別についてどう考えているか」「これからどうしていきたいか(ホルモン治療や性別適合手術をしたい、治療は考えていないけど心の性別に寄せた見た目で生きたい、トランスジェンダーの知り合いがほしい、など)」を書いて終了だ。

レポートや日記みたいに時間をかけなきゃ読めないものではなく、あなたの性別にとって重要なことをすぐに把握してもらえることを意識して書くと良いよ。

このような書き方にしておくと、カウンセリング時にお医者さんも

「中学時代は○○だったって書いてあるけど、これはどうだったの?」

質問もしやすくなり、(病院やお医者さんの経験値にもよるが)性同一性障害かどうかの判断もしやすくなる。

おまけ・敬語で書く?

上に示した例を見て、

「自分史は敬語じゃなくても良いの?」

とお思いの方もいるだろう。

もちろんお医者さんと話すときは敬語だし、自分史も敬語で書いてもいい。

が、「せっかく簡潔な箇条書きにしているのだから」ということと、「お医者さんも論文などで「~だ」「~である」調の文章を読み慣れているから、紙資料の自分史で敬語が使われていないだけで目くじら立てる人はいないだろう」ということで、僕は上に書いたような書き方で提出した。

診断がいらなくても

自分史は性同一性障害の診断書を貰うのに必要なものだ。

性同一性障害の診断書はホルモン治療や性別適合手術などの医療行為をするための書類となるし、または役所に改名手続きをするときにも使えるものだ。

なので「別にホルモン治療や性別適合手術は希望しないし、改名も必要ないな…」という人は書かなくても良いものとなる。

また、現状では「性自認が男性・女性である」という診断になるので、Xジェンダーなどの場合は理解のあるお医者さんに出会えたとしても、完全にしっくりくる診断書は今のところもらえない。

「じゃあ自分史は書かなくても良いのかな?」

ここで自分史のもう1つの役割をお伝えしたい。

それは、あなた自身を整理することだ。

性同一性障害ではなくても、悩み事や感情をかき乱された事などを実際に紙に書き出すと

「自分はここについて怒っていたんだ」

「○○が気に食わないと思っていたけど、冷静に考えると○○全体ではなくて、その中の××が嫌だったんだな」

のように、すぐには気づかないあなた自身のことを見極めることができる。

トランスジェンダーで

「自分は手術までしたい!って思っていたけど、実際書き出してみるとホルモン治療だけで解決できる範囲に自分の悩みがあるな。じゃあ一先ずはホルモン治療だけで」

「自分は女性/男性と思っていたけど、本当はXジェンダーなのでは…?」

といった重要な事柄を見つけられる良い機会でもある。

お医者さんに見せるとなると「FTM/MTFっぽく見せなきゃ…」と言ったしがらみが出てきてしまう人もいるかもしれない。

近くの病院しか行けず、性同一性障害やトランスジェンダーに詳しく無さそうなお医者さんに見せる場合などで「テンプレな性同一性障害の人」を演じなきゃ…と思ってしまう可能性もあるんだって。

なので1回、誰にも見せない「自分に見せるための自分史」を書くことがおすすめだ。

まとめ

今回は自分史の書き方についてお話してきた。

お医者さんにとっては判断する重要な材料となる自分史。

あなたにとっては、限られた診察時間でより多く・より重要な情報をお医者さんに伝えるためのカンペとなる。

なので自分史は15分でパパッと書いてしまわず、1日時間をとって

  1. 過去の性別に対する違和感のあった出来事を思い出す時間(何かしながらで良い)
  2. 自分史を書くためのネタ出し。1で思い出したことを思い出した順にメモして書き出していく。
  3. 2で書きだしたことを、時系列順にする。文章を読みやすく簡潔にしていく。これが下書きになる。
  4. 清書。

とすると、あなたにとってもお医者さんにとっても良い自分史になるだろう。

僕はアート作品を制作するが、それも制作する作品すべてを包括する「何故自分は制作するのか?(ステイトメント)」を作る際にも自分史を作った。

そうすると作品1つ1つのコンセプトやテーマが変化しても、「この作家・アーティストが作っているから」という統一感というか、1本の筋が通った作品群になるのだ。

自分「史」といっても「実際に起こったこと」よりも「それに対するあなたの考え方・価値観」が重要であり、その基本パターンは簡単に変わることはほとんどないからだ。

なので性同一性障害の自分史も、「実際の出来事」よりも「それに対してあなたが思ったこと・考えたこと」の方を大事にしてほしい。

それが今後の「治療」「手術」をするか、やるならどれくらいかといった方針の軸になるし、周りの人に「自分をどう扱ってほしいか」を明確に伝えるときの話の核にもなる。

アート的な思考って、こういうときも使えるんだね。
診断書を貰うことはもちろんだけど、悔いのない判断をしていく材料に自分史を使っていこう。