こんにちは、Miyabiだ。

皆さんはエンデュミオンという名前を聞いたことがあるだろうか?

「エンデュミオン」で検索すると、「セーラームーン」をはじめとする人気アニメが一緒に出てきて、文化業界におけるギリシャ神話の人気の高さを伺える。

つまり、エンデュミオンはギリシャ神話に出てくる美少年ってことだね?

美少年くんの言う通り、エンデュミオンはギリシャ神話に登場する人物で、絵画作品では「美少年~美青年」の姿で描かれる美男子となる。

そして名だたるアニメの中でも「セーラームーン」を例に挙げたのは、ギリシャ神話のエンデュミオンは月にかなり関係のある美男子であるからだ。

今回はギリシャ神話の美男子・エンデュミオンについてと、彼が描かれた絵画作品を見ていこう。

エンデュミオン~月に愛され永遠に眠る永遠の美男子

エンデュミオンとセレネーの物語の概要

アンヌ=ルイ・ジロデ=トリオソン「エンデュミオンの眠り」(1791年)、月の女神が描かれない珍しい作品。エンデュミオンの美しい裸体が月あかりに照らされている。

ギリシャ神話に出てくるキャラクターには2種類いて、1つは神様、もう1つは人間だ。

そして人間が出てくる場合は、「神様に愛された人間」という構図がよく出てくる。

今回のエンデュミオンの物語も同じで、

月の女神・セレネーに愛された人間・エンデュミオン

という構図だ。

ベネデット・ジェンナーリ「ディアナ(セレネーと同一視されてきた月の女神)とエンデュミオン」、セレネーは額に月を付けている設定がある。セーラームーン…

ある日、山で眠っていた美男子・エンデュミオンを発見した月の女神・セレネーは、あまりの美しさに一目惚れをしてしまう。

彼女はエンデュミオンを洞窟の中に連れて行き、永遠の若さを保つために永遠の眠りを彼に与えた。

それ以降は毎晩セレネーは洞窟に降臨し、エンデュミオンのそばに行って逢瀬を続けていると言われる。

当のエンデュミオンの意思はというと、「毎晩夢に美しい人が出てくるなぁ…その美しい人は毎晩僕を愛してくれるなぁ…」と思っていたようだよ。

なので絵画に描かれるエンデュミオンはいつも眠っているのだ。

何故エンデュミオンを眠らせた?

神が人間に恋をするストーリーがギリシャ神話に多くても、神が人間を天界に連れて行くことは少なく、多くは地上世界で遊んでいる。

天界に行くにはガニュメデスのように、天界に就職をする必要がありそうだ。

ギリシャ神話の神というのは「ネクタール」という不老不死の酒を飲んでいる。

ネクタールは天界でしか飲めない酒なので、地上の人間がネクタールを飲むことはできない。

なので神と人間の恋というのは、人間が先に死んでしまう悲恋であることが多いのだ。

セバスティアーノ・リッチ「セレネとエンデュミオン」(1713年)、女神が人間の方に降臨している感じが強い絵。キューピッドが見守る。

エンデュミオンも人間なので、いかに今が美少年であってもいつかは月の女神・セレネーよりも先に老いて、先に死んでしまう

天界での職も空きができることは奇跡に近いものなので、エンデュミオンを天界に連れて行くこともできない。

セレネーにとって「結末は悲恋である」ことが、出会った瞬間からの決定事項だったんだね。

何度も会ってからセレネーはエンデュミオンに「このまま老いていくのと永遠に若いまま、どっちが良い?」と聞いた。

すると彼は「永遠に若いままが良い…」とまどろみながらで答える。

そこで永遠の若さ(不老不死)を保つために、死に限りなく近い「眠り」を永遠に続けることになったのだろう。

セレネーは月の女神であり、夜の象徴とも捉えられる。

古代において「夜」とは現代と違って、「日が沈んだら眠る時間」であったことからも、人間が月の女神とデートするためには眠る必要があった、とも感じられた。

色々な説のあるエンデュミオン

実はエンデュミオンについては色んな説があり、現在でも混乱が続いているらしい。

月の女神が美男子・エンデュミオンに恋をする→永遠の若さと永遠の眠りを与える

という大まかなストーリーは共通するのだが、エンデュミオンについて・月の女神について…などといった細かい設定が定まっていないのだ。

色んな説を見るとそれぞれのキャラクターの特徴がだんだん掴めて来たりもするよね。
見てみよう。

エンデュミオンの職業は?

月の女神という神様に恋をさせるほどの美貌を持つ美男子・エンデュミオン。

実は彼の職業にいくつかの説がある。

血筋の良い説

まずは全知全能の神・ゼウスの子、あるいは孫説。

ゼウス

神の血をひくのだから美しいに間違いない感じはある。

だが「人間」というアイデンティティはどうなるのだろう?

ギリシャ神話の神と人間は身分のようなもので、ゼウスの子孫が人間の王・英雄となる話も多く収録されている。

ギリシャ神話の神はオリュンポスの神であって、神界でも王権があったようだね。
ゼウスも神の王で、幕府や内閣のように世代交代がある感じっぽいよ。

なのでゼウスの子孫でも「神」になる者もいれば、「血筋が良いとされる人間」になる者もいた、ということだ。

これに似たもので、エンデュミオンはエリス地方の王様説もある。

月と関係ある説

別方面の説として、、または夜に関係のある仕事をしていた説もある。

1つはエンデュミオンは天文学者だった説だ。

ピエール・フランチェスコ・モーラ「セレネとエンデュミオン」、しっかり服を着たエンデュミオンと、いかにもな月の女神。キューピッドが「しーっ」と言っている。

古代ギリシャにおいて天文学は、文法・論理・修辞・幾何学・数学・音楽と並んだ重要な自由市民が学ぶべき7科目の1つだった。

天文学者という設定ならば、月を観察しているはず。

エンデュミオンがセレネーの現れることのできる夜に外にいる状況が容易に設定できるというわけだ。

もう1つはエンデュミオンは羊飼い説

何で羊飼いが月と関係ある仕事なの?

…僕も羊飼いには詳しくない…ので調べてみよう。

羊飼いは早朝に羊を山に連れて行き太陽に当てて、夕方には牧羊犬とともに羊を集めて小屋に戻る仕事と記憶している。

モンゴルに行ったときに午前中の広い草原の遠くの方で、羊飼いが真っ白の群れを引き連れているのを見た。

どちらも昼間の仕事だが、キリスト教の話には「夜に野宿をして羊の番をしていると天使が現れ…」という一説が出てくる。

なので古代の羊飼いの仕事は昼間だけではなく、夜も続いていた、と考えられるのだ。

フランチェスコ・ソリメーナ「ディアナとエンデュミオン」、すごく密な構図。羊飼い説を聞くとエンデュミオンのそばにいつもいるワンコが牧羊犬に見えてくる。

羊飼い・エンデュミオンは夜に羊の見張りをして、うとうとしたところを月の女神・セレネーに見初められた、というのがこの説だろう。

同じ羊飼いから立身出世した人といえば、こちらのダビデ。ついでに。

永遠の眠りを与えたのはセレネー?

ヨハン・カール・ロス「セレネとエンデュミオン」、ゼウスっぽい老人が謎の壺を使って、エンデュミオンに何か施している。それを見守るセレネー。

エンデュミオンに「老いていくのが良い?永遠に若いままが良い?」と質問をし、

「永遠に若いままが良い…」

と夢現な返事を聞いたセレネーは、永遠の若さを永遠の眠りによって彼に与えた。

これには2つの説があり、

  • 返事を聞いたセレネーが全知全能の神・ゼウスにお願いして、ゼウスが永遠の眠りと若さをエンデュミオンに与えた説。
  • セレネー自身がエンデュミオンに永遠の眠りと若さを与えた説。

がある。

エンデュミオンの眠る山はどこ?

ジョージ・フレデリック・ワッツ「ディアナとエンデュミオン」(1891年)、一番親密。

エンデュミオンの眠る山にもいくつか説があり、

  • エリス(エンデュミオンはエリスの王だった説がある)のあるペロポネソス半島
  • カリアにあるラトモス山(エンデュミオンはこのラトモス山出身説がある)説

だ。

今でも決着がついていないので、ペロポネソスにもラトモス山にも、エンデュミオンのお墓があるとのことだ。

日本の「邪馬台国はどこだ」議論になんだか似てるね。

まとめ

今回は月の女神・セレネーに愛された美男子・エンデュミオンについてお話してきた。

エンデュミオンは神に愛されるほどの美男子なので、絵画史においては画家たちが「自分の思う一番の美少年・美青年」を思う存分に描ける機会でもあった。

なので女神から愛されるストーリーでも、男性の同性愛的な目線でエンデュミオンの裸体を美しく描かれている絵画も多いのだ。

冒頭で挙げたこの絵はまさに。普通に寝ているのではなく、一番きれいに見えるポーズを取っているのも特徴だ。

このブログでは今までも色んなギリシャ神話に登場する美少年についてお話してきたが、「永遠に眠る=死んでない=不老不死」となるエンデュミオンはじゃっかん特殊な感じがする。

他の美少年は問答無用に儚く亡くなっているからだ。

とはいえ、眠るというのも一種の「死」であり、セレネーも月の女神で「夜」を司っており、「昼間=生」「夜=死」とも考えられてきた。

となるとエンデュミオンも例にもれず、儚い美少年の別バージョンと考えられる。

女神に愛された美少年について知りたい方はこちらで美少年・アドニスについてお話しているので併せて見ていただきたい。

また男神に愛された美少年についてはこちらの記事でお話しているので是非。