こんにちは、Miyabiだ。

皆さんはシメオン・ソロモンという画家はご存知だろうか?

ほとんど名前を聞かない画家だね。

…そう、聞かなすぎて僕もちゃんと把握したのは最近なのだ。

が、しかし、彼は「同性愛が罪」とされていた19世紀のヨーロッパのアート史において、女性同士の同性愛(レズビアン)男性を同性愛的に表現するといった、挑戦的なLGBTq+アートを遺している。

「眠りし者と目覚めし者」(1870年)

惜しくも同性愛の罪で投獄されて、画家としての人生を強制終了させられてしまったソロモン。

今回は現代の我々にLGBTq+の歴史を橋渡してくれた画家・シメオン・ソロモンの作品を紹介しつつ、「セクシュアル・マイノリティや人種・国籍のマイノリティの人は、自己肯定のために歴史を把握すると強い」というお話をしていこう。

シメオン・ソロモン~同性愛とユダヤ

同性愛者にしてユダヤ人

シメオン・ソロモンは1840年に生まれて1905年に没した、19世紀イギリスラファエル前派の画家だ。

シメオン・ソロモン

ラファエル前派とは、中世やルネサンス期の美術から「色彩の豊かさ」「自然の優れた描写」を学ぼうという意識で制作する派閥で、簡単に言えば

  • ルネサンス期の宗教画のような、物語性
  • 近代的な、リアルさ(同時期にカメラが登場している影響もある)

をミックスし、物語性があってかつリアルな描写というフィクションとノンフィクションを両立させた画面になっているのが特徴だ。

ロセッティ「魔性のヴィーナス」(1864~1868年)
ミレイ「オフィーリア」(1852年)

フィクションを現実みたいにリアルに描く…
と言った特徴から、描かれる人物が色っぽくなるのも自然の成り行き…かな?

そして彼は「同性愛は逮捕」の時代の同性愛者であり、「キリスト教中心」が続くヨーロッパにおいてユダヤ人だった。

そう、ソロモンはセクシュアルと人種、2つのマイノリティを併せ持っていたのだ。

同性愛とユダヤ人のアイデンティティは迫害を受けてしまうきっかけになってしまったが、注目してほしいのは、同時にシメオン・ソロモンの絵画の主題として確固たる基盤ともなっていることだ。

「弱点は強い個性に変わる」ことを証明してくれている作家だ。
詳しく見てみよう。

旧約聖書に着目

「ソロモン王」(1870年)、同じ名前だが、こちらは旧約聖書に登場する有名な王様

ソロモンはユダヤ人だ。

ユダヤ人の聖書と言えば、旧約聖書

現代アートの世界でも、作品を読み解くためには作家の出自というのはとても重要な手がかりとなるし、作家も「自分が作品を制作する動機(=ステートメント)」を作る際に必ず振り返る部分だ。

「母の腕に抱かれるモーゼ」(1860年)、2人の女性はモーゼの母と姉とみられる

ソロモンは、当時キリスト教的な主題が多く描かれていた絵画業界で、「自分はユダヤなので」と明かし、旧約聖書に着目した作品を発表した。

他にもユダヤ人ならではの生活様式や儀式をテーマに制作したり、彼ならではの作品を作り出している。

ギリシャ神話の美少年・美青年も描く

「バッカス」(1867年)、酒の神として有名な、東洋発のギリシャ神話の神の1人

ソロモンはギリシャ神話に興味を持っていた。

こちらの記事にも書いたように、古代ギリシャでは少年愛が教育システム化されていた。

よって男性同士の同性愛が多くギリシャ神話にも物語られている。

ギリシャ神話の信仰対象・オリュンポスの神々はキリスト教によって駆逐されたが、中世以降は文学的な教養として「同性愛禁止」のはずのヨーロッパ文化に取り込まれていた。

何だか矛盾しているけど、男性画家は「教養だから合法でしょ」と美少年や美青年を思い切り描ける良い機会でもあったよ。

女性同士の同性愛を描く

「サッフォーの習作」(1862年)

古代ギリシャの詩人にサッフォーがいる。

彼女はレスボス島(ミティリーニ島)出身で、女性に対する愛の詩を遺し、哲学者プラトンに高く評価された人だ。

「レズビアン」の語源は、サッフォーの出身・レスボス島にちなんでいるんだ。

そのサッフォーを女性同士の同性愛的に描いた作品がこれだ。

「ミティリーニの庭園のサッフォーとエリンナ」(1865年)

ソロモンは詩人・スウィンバーンと出会い、彼の作品の挿絵を描くことによってサッフォー、または古代ギリシャへの関心ができたのだ。

この時代までに女性同士の同性愛が描かれたことは少ない

サッフォーの詩も来歴も、キリスト教時代に破壊されて断片的にしか遺されていない

ソロモンはこのサッフォーや先に紹介したバッカスなどの絵画作品によって、現代のLGBTq+に認知され、勇気を与えている。

マイノリティは歴史を把握すると自己肯定感が強くなる

ソロモンはセクシュアルに関するマイノリティを同性愛的なテーマで、人種のマイノリティを神話や生活様式をテーマにして、作品に昇華している。

「秋」(1865年)

そして彼の立脚したところが、歴史であることに注目してほしい。

小学生時代に読んだ妖怪本で「妖怪は親なんていない、闇からポンッといつの間にか生まれてるんだ」というセリフがあって、寂しくて今でも印象的なのだが、人間である僕らは「闇からいつの間にか生まれてる」なんてことはない

生みの親・育ての親がいて、その親にも親がいて…と続いていく。

また年齢が上がれば、「どこかの年代で建つ理由ができて」存在する学校に通って、自分と似た境遇・違う境遇の同年代と同級生になり、自分より年上である先生に学ぶ。

出身も同じだ。生まれた国や地域、育った国や地域、ゆかりのある国や地域などなど。

それらがまとまって、「自分」という個人となる

つまり人には歴史によってできたアイデンティティ(個性)が染みついているのだ。

寿司が好きなら、寿司がどうやってできたか、寿司は江戸時代のファーストフードでもあった、などなどを知るともっと楽しく美味しく食べれるよね。

マイノリティは、この「歴史」を意図的にはく奪されることが多い。

「花嫁、花婿、悲しき愛」(1865年)

LGBTq+やセクマイは、ソドミー法という差別・迫害の歴史から、サッフォーのように「無かったことにされ」ることがよくある。

また少数民族や原住民族など、迫害の対象となる民族もまた、侵略民族や多数民族によってその神話や歴史を奪われることは、あなたも学校の社会の授業で知っているだろう。

人のアイデンティティ=歴史」でできている

となると、「無かったことにされた」アイデンティティは宙に浮かんでしまう。

「寿司が大好き」と日本人の友達に言ったら
「…は?す…し…?何それ、聞いたことないんだけど…」
と全員に言われたら、すごく混乱するよね。
そういうこと。

英語を頑張るために、この授業内では日本語で話すの禁止にするぞ」と「この世から日本語という言語を抹殺します」というのが雲泥の差なのは、そこに「日本語の歴史」を認めているかどうかの違いだ。

僕らLGBTq+も社会から抹殺されないために、LGBTq+の歴史を把握しておくことがお勧めだ。

これが僕らの存在理由になるし、精神安定剤になってくれる。

今回はソロモンの絵画をご紹介したが、これからもLGBTq+とアートとの関係を伝えていきたい。

まとめ

ソロモンは30代である1873年と翌年1874年に、同性愛の罪で逮捕される。

これによって彼は美術界から追放され、かつての仲間からも見放されてしまった。

彼がアート史に名前を残せなかった理由の1つとも言える。

だがその後も彼は耽美主義なお客さんのために作品を制作している。

「夜」(1890年)

64歳で亡くなったソロモンの墓は近年まで忘れ去られていたが、2014年には子孫や支援者の方によって建て直されたとのことだ。

復権、というのだろうか。

「罪」という名の元に完全に「無かったもの」にされなくて良かったという思いが強い。

最近、家の中で体が動かせるように部屋の模様替えをした。

インドア生活なもので「運動不足からの斃れる、は嫌だなぁ」という思いからだ。

「無かったもの」にされたくない。

なので頑張ろうと思う。