
こんにちは、Miyabiだ。
ギリシャ神話を見てみると、主神であるゼウスに愛された美少年がいる。
その名前はガニュメデス(ガニュメーデース、ガニメデ)。最高神・ゼウスに誘拐されて永遠の美と若さを与えられた人間の美少年だ。
このガニュメデスはアート史でも多くの絵画に描かれている。
今回はこのギリシャ神話の美少年、ガニュメデスについてお話していこう。
目次
地上で最も美しい少年
ガニュメデスとは

ガニュメデスは神話に登場する人物だが、神ではなく人間として出てくる。
彼はトロイアの王子だった。
そして、「地上で最も美しい少年」だったのだ。
それを天界で全知全能である主神・ゼウスが見ていた。神話においてゼウスは男性女性問わず気が多くて色恋話は数多い。
地上で羊を放牧していた美しい王子を見たゼウスはワシに変身(得意技)、またはワシを使いに、あるいは旋風を起こして、ガニュメデスを天界に誘拐してしまう。
そして彼を神々の給仕役にするのだった。
ギリシャ的愛

古代ギリシャでは年長者が12~20歳頃の年少者を指導し、ときに恋愛関係になるという文化があった。年上と年下、おじさまと少年という関係でのみ、男性同士の同性愛が公に認められていたのだ。
それについては下のリンク先の記事で詳しく書いたので参考にしていただきたい。
この価値観が主神ゼウスと美少年ガニュメデスの物語にも色濃く反映されている。
ガニュメデスの物語が同性愛の物語であるというのは古代からの認識で、これを元に作られた詩や劇でも「少年愛」として描かれている。
ガニュメデスの誘拐とアーティスト

ガニュメデスは神ではない。あくまでも地上生まれの人間だ。
それでいて「地上で最も美しい少年」と描かれ、主神であるゼウスに見初められたのだ。
地上のものに対して神々のいる天界は「形而上」「イデア」と呼ばれ、我々地上にあるものはこの「イデア」を参考に作られたものと考えられた。
つまり、天界にあるイデアが最も真実であり、最も美しい。地上にあるあらゆるものの見本、という価値観が古代にあった。
地上に色んな見た目のリンゴがある。そのあらゆるリンゴの見本となる、「リンゴのイデア」が天界にはあるのだ。
地上の人間は天界の神の姿を元に作られた、という神話は聞いたことがあるだろう。人間のイデアは神だとされる。
これらを考えると「地上で最も美しい」ガニュメデスはほぼほぼイデア的美少年だったといえるのだ。

ガニュメデスの物語を学んだアーティストはこの神も見惚れる絶世の美少年の姿を描き出すことに夢中になった。古代よりずっと、西洋のアート史で「ガニュメデスの誘拐」はメジャーな画題だ。
「ガニュメデスの誘拐」を見ると、そのアーティストの考える「美少年像」がよく分かる。
この記事内でも色んな画家の描いた「ガニュメデスの誘拐」の絵画を載せているのでご覧いただきたい。
聖書サイドに登場する、アーティストにとっての美少年主題・ダビデ。元気っこがお好きな方はこちらもどうぞ。
ガニュメデスの給仕の意味は?

ゼウスは計画通り誘拐してきたガニュメデスを神々の、あるいは自身の給仕役とした。
仕事としては神にお酌をする、といったことだ。
宴会で自分のお気に入りの美少年にお酌をさせたい…という下心もあるのだろうが、ここで注いでいる飲み物、これをネクタールという。
ネクタールとはギリシャ神話に出てくる神の飲み物であり、死に打ち勝つ効能のあるものだった。
神が神であるにはネクタールが必要だったのだ。
ガニュメデスはこれを注ぐ給仕役になった。
ゼウスは人間・ガニュメデスに永遠の若さと不死を与えて、永遠の美少年に永遠の給仕役を命じた。
ガニュメデスは今もネクタールを注いでいる。
まとめ

「風姿花伝」を室町時代の能楽者であり美少年だった世阿弥が30代の頃から書いている。世阿弥は若いときは才能と美しさから足利義満将軍に愛され、その周りの人たちからも愛されたが、義満が亡くなると一気に人気が陰り、老後は佐渡で暮らした。
世阿弥は美少年で経歴をスタートしたが、その芸事に対しての努力と研究熱心さはそれ以上だった。
子どもには子どもの、青年には青年の、老人には老人の「美しさ」があり、それを稽古や研究で磨き上げ、本番の舞台で表現しきる。そう伝えている。
僕は実在・神話問わず古代ギリシャやローマなどの美少年を調べると、この世阿弥の言葉を思い出してしまう。
ギリシャ的愛は年長者目線の少年愛だ。
ゆえに「少年期の」美しさしか美少年に許されていないところが歯がゆい。僕がこれをゲイやバイセクシュアルなどというよりも「少年愛」と表記したくなるのはこの点だ。
ガニュメデスは永遠の美少年となっているが、天界でも年をとっていけるとしたら、美少年から青年になり、大人になり、年老いていく、その美しさもぜひ見てみたいと僕は思ってしまう。