「実は自分はゲイなんだ」「レズビアンなんだ」「トランスジェンダーなんだ」

自分がLGBTq+だ、と周りにカミングアウトしようか悩んでいる人もいるだろう。

この人に言っても大丈夫かな

何て言ってカミングアウトすればいいんだろう?

などなど、考えることが多い。初めてカミングアウトするなら、なおさらだ。

僕もトランスジェンダーなので、何度かカミングアウトをしてきた。

その経験を踏まえて、LGBTq+が周囲にカミングアウトをするときに気を付けること・注意点を挙げていこう。

カミングアウトする?

初めての相手は友人が多い

「自分がLGBTq+だと言ってしまいたい」

そう思う理由は人によってさまざまだ。

また、カミングアウトする相手もさまざまだ。

親、友人、パートナー、仕事関係者、学校関係者、などなど。

で、カミングアウトしたほとんどのLGBTq+は信頼できる友人に言うことが多いようだ。「友人へのカミングアウト」の割合が一番多い。

一方で、親へのカミングアウトは友人へのそれに比べて割合が減る。

「友人」は年齢が近かったり、好きな事が似ていたり「共通点の多さ」で選べるので、たとえ友人がLGBTq+でなくても普通に受け入れてくれる場合が多いからだろう。

「親」の場合は年齢は一回りも二回りも離れていて、好きな事が似ているとか選ぶ友人が似ているとか関係なしに近くにいる存在だ。

ちゃんと信頼関係があれば協力してくれたり、こちらを理解してくれようと頑張ってくれたりもするだろうが、そもそも理解しようとしてくれなかったり世間体を気にしたりしていると、どうしても打ち明けづらい

「娘は20代前半に結婚して専業主婦になり子どもを2人は産んで親の面倒を見るべき」「息子は一流企業に新卒で入社して定年までずっと働きながら幹部を目指すべき」の考えを持つ親に「フリーランスで働いている」「子どもは経済面もあるからまだ」など少しでもテンプレートからズレた考えを言うと、LGBTq+のカミングアウトでなくても衝突するのが分かるだろう。

未成年で同居している時期なら、安らぐはずの家が居心地悪くなる恐れもあり、なおさら慎重になる。

カミングアウトをしよう、と決心したときは、まずは信頼できる友人に伝えて自分の精神的な居場所を作り、親には様子とタイミングを見て伝えるかを判断するようにすると良いだろう。

カミングアウトしない、という選択肢

LGBTq+だったり、「自分はもしかしたらそうかも?」と思っている人は、何気ない日常から

自分は周りと違う

理解してくれる人なんていないんだ

と、自分の中でモヤモヤしてしまう、抱え込んでしまうキッカケが多い。

皆が「Aだ」と言っている中で「Bだと思う」と言うのは結構難しい。

ちょっと心理学の話になるが、アッシュの同調実験というのがある。

7人の各グループが半円形に並んで座り、そのうち6人が実験者の助手で、1人だけが実際の実験者だった。

参加者は他の6人の身元がわからなかった。

実験開始後、実験者は全員に標準の直線Xを表示し、同時に他の3つの直線A、B、Cを比較のために表示し、そのうちの1つは標準の直線Xと同じ長さだった。

次に、全員(6人の助手と1人の実際の参加者を含む)に、Xと同じ長さの直線を言うように依頼する。実験者は最後の1つで実際の被験者を意図的に配置し、最初の6人の被験者は実験者の助手に変装した。実験によっては、正しい答えを出すこともあれば、間違った答えを返すこともあり、最後に、実際の被験者はどの行がXと同じ長さであるかを判断する。

アッシュの同調実験 – Wikipedia

つまり、「Xと同じ長さの直線はA、B、Cのどーれだ?」という簡単なテストだ。

A、B、Cの長さの違いは定規がなくてもすぐ分かるので、これは簡単なお仕事。

の、はずだが、集められた7人の内、6人はサクラ(つまり科学者側)。

自分は「Bだ!絶対!」と確信しているのに、他の6人は「Aだ」「Aでしょ」「Aに違いない」と言っているのだ。

この実験結果では、純粋な被験者として集められた人の内、3/4は「Bじゃないのかな…A、なのかな…」とぐらついた。

周りがあまりにも Aだと主張しているので、「あのー、Bでしょ」と言い出しづらいのは想像すると分かるだろう。

自分が思っていることを打ち明けづらい。

それどころか、「Aだよね…!」と自分に嘘をついてしまったりもする。

皆が「Aだ」と言っている中で、たった1人で「Bだよ!」と完璧に主張できる人は少ない、たいてい流されてしまう、という実験だ。

そして「自分に嘘をつく」ことが精神的にとても悪いことである。

この2つを併せると、LGBTq+の人の中で、精神的にツラい思いをしている人は多いことが分かる。

で、勇気を出してカミングアウトしたところで「あり得ない」「勘違いだよ」と本人でないにも関わらず否定をしてこられでもしたら、せっかく楽になりたくて打ち明けたのに余計にストレスが増えた、なんてこともあり得るのだ。

相手やタイミングを見て「カミングアウトしない」という選択肢もあることも視野に入れよう。

カミングアウトのコツ・注意点

カミングアウトしているLGBTq+を知ろう

まずは自己紹介の準備をしよう。

ネットやSNSでLGBTq+をカミングアウトしている人を見つける。リサーチするのだ。

LGBTq+をカミングアウトして、LGBTq+の人を勇気づけるために情報を伝える活動をしている人、アーティストとして作品を通して活動をしている人、一般人として普通に生きている人、などなど、ネットで検索するとこういう人は結構見つかる。

僕も学生時代からLGBTq+の人が発信する情報をチェックしている。

これのメリットは「LGBTq+と一言に言っても、色んな人がいるんだな」と実感できることだ。

「ゲイ」「レズビアン」「トランスジェンダー」などをそれぞれテンプレート化して固定概念で言う人が世の中に多い。未だに「おかま」「おなべ」と蔑称で呼んだり、「ゲイって筋肉ムキムキが好きなんでしょ」などと言ったりする人がいる。

だが、LGBTq+の人を何人も知って、その人本人の発信する情報を見ていくと、テンプレートが絶対ではないと分かる。

知恵袋などを見ると

「自分は女に生まれて、性別に違和感を覚えています。でも別に女の子を好きってわけではないんです。これはどういうことでしょうか?」

「ゲイって心が女で体が男なんですよね?」

と言った、テンプレートに振り回されている質問がたくさんある

(ちなみに、前者の質問の回答はトランスジェンダー男性でゲイである、X ジェンダーで男性が好き、などさまざまな可能性がある。

後者はトランスジェンダー女性とゲイを完全に間違えて認識している。ゲイとは男性を自認している人が男性を恋愛対象にしていることだ。)

こうした勘違いがあると「自分はゲイなのに〇〇じゃない…」「自分はレズビアンなのに〇〇じゃない…」など、不必要なとこで悩むことになる。

例えるなら、漫画家にはバトルものを描く人、ファンタジーを描く人、恋愛を描く人、学園ものを描く人、エッセイを描く人などジャンルがたくさんある。

また、アシスタントを雇う人もいれば、1人で事足りる人もいる。

エッセイ漫画家が「大長編ファンタジー描いてないから自分は漫画家じゃない」と言ったり、「アシスタント使ってないから自分は漫画家じゃない」と言ったりしてきたら、

いや、どこで悩んでるの?」「あなたはあなたのスタイルで良いじゃん」って言うだろう。

LGBTq+の人も同じだ。

でもバトル漫画しか読んだことのない小学生なら「漫画家はバトルものを描く!」と言うかもしれない。他にある膨大なジャンルを知らないからだ。

LGBTq+も色んな人を知ることで、「絶対に○○でなければならない」は存在しないことが分かる。

「何を相手に求めているか」も言う

LGBTq+に特に違和感を覚えない人でも、

「自分はLGBTq+なんだよね」

とだけ伝えられると

へぇ、そうなんだ。……で?

となってしまう。

なんで自分に、このタイミングで言った??」状態なのだ。

例えば友人に打ち明けて、自分のセクシュアルマイノリティを隠すことにストレスを感じたくない、という場合は

今まで隠すことに労力使っていて大変だったから言っておきたくて

と言うと、相手も「なるほど」と思ってくれるだろう。

また、トランスジェンダーで友人に女の子扱い/男の子扱いされたくないって場合は

男女で分けるなら、自分の事は男(または女)で扱ってくれると嬉しい

と言っておくのもアリだ。

勤務先や学校関係などで打ち明けるときは、事務連絡と考えると分かりやすいだろう。

自分は戸籍上は男なのですが、女性を自認しています。なので制服は女性のものが良いです

自分は同性のパートナーがいます。なので既婚者として扱ってほしいです。そこで福利厚生のことでお話があるのですが…

など、「LGBTq+のカミングアウト」+「こういう対応をお願いしたい」という形で伝えるとスムーズだ。

もしかすると相手もLGBTq+の対応をするのが初めてかもしれない。またはテンプレート認識をしているかもしれない。

LGBTq+が理由であっても、あくまでも個人として自分はこうしてほしい、こうしてくれると助かる、と伝えると分かりやすいだろう。

アウティングへの注意

「自分はLGBTq+だ」と自分から伝えるのがカミングアウト。

一方で「あいつ、LGBTq+なんだって!」と自分がカミングアウトした相手が許可無しに第三者にバラすのをアウティングという。

オープンなタイプだったら「バラされても平気」という人もいるだろうが、カミングアウトはたいてい、信頼した相手とタイミングを見極めて伝えている場合がほとんどである。

なので、「あいつLGBTq+なんだって」と自分の知らないところで広まることに不安を覚えたり、嫌な思いをしたりする人がほとんどだ。

アウティングする人には2種類いて、良かれと思ってバラしてしまう人、からかいや嫌がらせでバラす人とがいる。

悪意を持ってバラした人に対しては人権侵害など法的な処置もとれる。

偏見や悪意込みで広まっている可能性もあるので、周囲へも改めて自分から説明をすると良い。

良かれと思って…と全く悪意なしの拡散を防ぐためには、「他の人には自分からちゃんと言うから、あなたからは言わないでほしい」とカミングアウトと同時に伝えておくと良いだろう。

信頼できる相手ならば、あなたとの約束を優先してくれるはずだ。

まとめ

カミングアウトは隠すことによる精神的ストレスからの解放実際の生活におけるストレスからの解放潤滑な人間関係の補強として行うものだ。

カミングアウトによってストレスが増えるのでは元も子もない。

また、カミングアウトされた側の立場に立って考えてみると「え、つまりどういうこと?」「自分はどうすれば良いの?」という戸惑いも多かれ少なかれあるものだ。

お互いの人間関係を良くするためにも「自分はこういうことが嫌だから、こうしてくれたら助かる」「改めて自己紹介するね」「あなたも困ったことあったら言ってね」の気持ちでカミングアウトしてみると良いだろう。