昭和の映画看板、雑誌挿絵で熱い目をした美男美女、有象無象を描きまくったイラストレーター・石原豪人。その作品数は膨大で、床が抜けるほどである。

ゲイ雑誌やBL雑誌の挿絵も手掛け、美少年もこの通りだ。
豪人の描く絵はどれもドラマチックで劇的、ハードボイルドな「空気の密度」がある。
どんな秘密があって、このような濃く、美しい少年を描けたのだろう?
目次
アツい目の原点
戦争体験
1923年(大正十二)生まれということから分かるように、豪人は第二次世界大戦を戦場で経験している。しかもかなり残酷な事を目の当たりにしたらしい。
戦場で目撃した惨劇から、人間の本質を見たのだろう。
都会の少年たちが無人島に漂流してから救出されるまでの生き残りを描いた、小説家ウイリアム・ゴールディング「蠅の王」で語られるように、「怪物」はどこかからくるのではなく、どの人間の中にも潜んでいる。
美少年も綺麗ごとではない。「人間」である。
たおやかや神秘的であっても、「人間」が潜んでいる。
ここに戦争を体験し、戦後に活躍したクリエイターの強みを感じる。同時期に登場した漫画の神様・手塚治虫はストーリーにいったのに対し、豪人は絵柄にいった。
ロックウェルの影響
ノーマン・ロックウェル(1894~1978)は、20世紀アメリカで活躍したイラストレーターだ。

イラストがキャンバスに油絵で描かれていた時代だ。
豪人はロックウェルのイラストが好きだった。ロックウェルのイラストの緻密な構図もさることながら、表情という「言語」を最大に使っている。
それまでの日本の美少年イラストは、高畠華宵のように日本画の流れが強かった。

戦前の挿絵だが、この華宵の美少年もとてもとても良い。美しい。この流れも山岸涼子などの一部少女漫画で受け継がれている。
一方で、アメリカのロックウェルのイラストを日本イラストに融合させたのが豪人である。

表情の作り方と人体表現が華宵から変化しているのが分かる。
とはいえ、服は当時の日本にあったものだし、植物と人物を併せるのも日本的だ。
豪人式・美少年
江戸川乱歩との相性
豪人が挿絵を描いていた頃、少年雑誌では怪人二十面相で有名な江戸川乱歩「少年探偵」シリーズが掲載されていた。出張で少女雑誌にも載った。
江戸川乱歩が耽美主義の教祖がごとくなっているのは、乱歩が小説に美少年を多く登場させていることや、小説業とともに男色史を研究していたからだろう。
豪人はこの乱歩ワールドを劇的に、映画を観ている気分になるようなイラストを添えている。小林少年も二十面相も、目に熱いものを秘めた美少年・美丈夫として描いた。
探偵ものミステリーにある緊迫感、ドラマは豪人の絵柄でこそ描けた。
ジュネ
1978年から、少女向けBL雑誌の元祖であるJune(ジュネ)が発刊された。
僕も1冊、古本購入をしてみた。

これは70年代に萩尾望都や竹宮恵子で花開いた少女漫画の美少年部門、グラムロック、寺山修司の勢いを受けている時代性を感じる。
現代のLGBTQが読むと、時代錯誤を感じるところもあるが、現在のBLブームを見るとジュネはなくてはならない雑誌だった。
豪人はジュネに掲載された連載小説の挿絵を担当している。

細い線の美少年イラストが流行っている中で、豪人のページは肉感的な美少年ばかりである。重厚でとても良い。
ところで、上の紙面の原画は冒頭にも載せたこれなのだが

背後の老人が掲載時にはばっさりカットされている。
小説と関係ないのだが、豪人の洒落っ気が見えるようで僕は好きだ。
まとめ
塩顔、しょうゆ顔などいう言葉があるが、豪人のはいわゆるバタ臭い顔だろう。
濃いめの俳優が昭和期に多く出てきたあたりも、時代と合致していた。
熱い空気感のある美少年なら、石原豪人である。
僕も墨で模写をしてみた。

描いたあとで知ったのだが、豪人は墨や絵の具とともに、ボールペンを下書きから線画まで使用しているという。
軽やかかつ熱いアナログ味はボールペンからだろう。1つ、勉強になった。